第15回 日本統合医療学会 日本統合医療普及推進協会からの講演
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第15回日本統合医療学会

 2012年1月14日、15日と、大宮で第15回日本統合医療学会が開催されました。その中で、日本統合医療普及推進協会からいくつかの演題が出されており、興味深かった演題のダイジェストを掲載いたします。

【予防医学の未来とTPPの動向】
HRD株式会社 森 宏之 先生

1.マクバガン報告書とアメリカのヘルスケア政策
 1977年12月、「上院、国民栄養問題特別委員会レポート(いわゆるマクバガン報告書)」において、提言として次の点が強調されました。
・医学のあり方を根本的に変え、栄養学に基本をおく医学を確立する。
・動物性脂肪を過剰に摂取する食生活(死に直結する食事)を改める。
・米、魚肉、野菜中心の伝統的な日本型の食事を見習う。
・食事、栄養、がんとの相互作用をNIHで調査して対策を講じる。
 これを受け、米国のヘルスケア政策は進んできました。
・1990年:栄養表示教育法
1994年:栄養補助食品健康教育法
1994年:健康目標ガイドライン(1999年に新ガイドラインとして継続)

2.補完代替医療の見直し
 現代医学の長所と短所として、次の点が挙げられます。
長所:感染症や事故、救命救急医療への貢献
短所:生活習慣病に対する根本的な治療には効力が弱い

 そこで、補完代替医療が見直されてきています。これは、「近代科学の原則」に照らし合わせて、”それなりの治療効果”が認められる伝承医学や東洋医学、民間療法などを「補完代替医療」と位置付ける。

 統合医療とは、近代西洋医学を柱として、そこに補完代替医療を組み込ませてゆく医療のことであり、近代西洋医学の否定でもなく、補完代替医療の絶対視でもありません。

3.プライマリケアと予防医療
 医療には3段階あり、@病気の予防と治療、A良好な健康状態の維持回復、B個人の遺伝的自己治癒プロセスの促進です。これには、門番となるホームドクターが必要です。
 疾病の8割はプライマリケアで済むと考えられており、医療費削減のキーは、まさにこのプライマリケアが握っていると考えられている。この考え方は、近代西洋医学の発達により、いったんは衰退したものの、1970年代以降再評価され、再度普及してきている。

4.統合医療への期待と課題
 医療費の高騰が叫ばれる今、低コスト型の医療として補完代替医療の普及と統合医療の考え方の普及がのぞまれている。たとえば、アメリカの代替医療推進部隊として国立補完代替医療センターがあり予算規模も1億ドルを超えている。ここの医療費削減効果の5カ年累計を見てみると、サプリの利用による医療費削減額は次の通り(日本円に換算)。
・葉酸(1260億円)
・オメガ3系脂肪酸(2880億円)
・ルテインとゼアキサンチン(3240億円)
・カルシウムとビタミンD(2兆1870億円)
 課題としては、今後さらなるエビデンスの蓄積、データの蓄積が必要とされることと、専門家の養成が急務であることがあげられます。

5.アメリカの保健医療制度をめぐる動き
 2010年に、「オバマケア」として医療保険制度が設立されたものの、既成業界からの抵抗(既得利権の確保)もあり、独占状態の保険会社の「少しだけ妥協し、基本的権益を維持」というところに収まっている。2012年の大統領選挙でオバマ氏を落選させ、医療保険制度の廃止に持ち込もうと必死の状態。
オバマ政権が持続するためには、医療保険制度の維持継続では正直キツイ。となると、国家貿易戦略を打ち出し、最大の貿易赤字国である中国市場を取り込む必要が生じる。そのためには日本の取り込みが不可欠となる。そこで・・・TPP。

6.TPPと日本医療の課題
 まず、TPPの流れは以下の通りです。
2006年:4カ国でEPA(経済連携協定)を発足〜シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド
2008年:アメリカが参加の表明
2009年:日本が「東アジア共同体構想」を打ち出す
 これに焦った米国は、早速その言い出しである鳩山おろしをはじめ、新たな協定を策定
 管を立てることにより「日米経済調和対談」として、貿易の自由化を復活させる
2010:TPP出現。〜EPAに加えて、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーの9カ国。
 これにより、アメリカ主導型の東アジア市場開放要求路線に転換し日本への圧力強化に至る。
 →「解放」という大義名分に注意。日本もかつてアジアの民族解放と銘打って戦いへの道を進みましたね(清水の個人的解釈)
2011年:あたらな加盟表明国〜カナダ、メキシコ、日本、フィリピン(?)、パプアニューギニア(?)

ここで、21世紀はアジアの時代といわれる所以を考えてみましょう。
・世界市場の争奪戦は、「アセアン10カ国+日本、中国、韓国」VS「TPP」となります。
・TPPにおけるGDPシェアは、アメリカ67%、日本が24%、オーストラリアが4%で、これが全体の95%となり、残りの国であとの5%となる。
→したがって、世界の支配者になるためには、何としても日本が必要。そのためにはTPPに何としても加入させることが重要。

で、前述の医療保険とからみにお話しが戻るのですが・・・。
TPPをテコにした日本市場の開放を要求してくるわけです。
具体的には・・・
混合診療の拡大、病院経営の株式会社化、医師や看護師の移動自由化、栄養補助食品の拡大、、、、などがあります。

つまり、TPPの指導のもと、日本の医療行政は大きく影響を受け、従来の国民皆保険制度を柱とした「医療鎖国制度」が通じなくなります。
保険制度が大きく変わってくる可能性があるわけです。

そういう流れも考え、ほぼ破たんしている保険制度の実情も考えると、やはり従来型の治療中心の保健医療そのものが不安定になってきていると言えましょう。

という感じです。
オバマ再選に向けて、日本の医療制度に影響が出るというのは、風が吹けばおけ屋がもうかる的かもしれませんが、アメリカの動向に日本の医療が左右されることはまず間違いないでしょうね。

【サプリメント外来導入の方向】
日本ニュートリション協会 副会長
清水廣宣 先生

 清水先生のほうからは、まず「医師がサプリを使わない理由」のデータが示されました。カッコ内は%です。順に、患者負担を気にして(24)、データが不足している(20)、販売業者を知らない(18)、販売施設がない(12)、患者の納得が得られない(10)、使ったことはあるが効き目がわるかった(4)などというところです。

 ドクターからの要望としては、ヒト臨床によるデータがほしい(28)、内容成分分析表がほしい(15)、禁忌を知りたい(15)、基礎データがほしい(14)、他の医療機関での使用実績が知りたい(11)などとなっています。

 さて、サプリメント外来を実践する場合の法的な問題点は、混合診療と物販行為になります。
まず、混合診療に関しては、現在保険で算定している病名に関する治療以外の治療であれば、混合診療には該当しないということ、また、物販に関しては、診療行為に基づくものであれば物販ではなく、ドクターの裁量権によるものという感じです。

 サプリ外来フォローアップとして、次の点が挙げられます。
・生活習慣の聞き出し
・どんなサプリを使用しているのかを聞き出す
・そのサプリを否定しない→よりよいモノを紹介する。
・サプリ服用を言わない患者さんがいることを念頭に置く。
・ダメ指導はダメ(やめろと言われるとやめたくなくなる→代替手段を提案)

 これらのことに留意してサプリ外来を導入してゆくとよいということでした。

今後、さまざまな形で統合医療は広まってゆくと思いますが、専門家が増えて、適正な広がりを見せていってくれることを願っています。

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